“目的”は社会を変えること。アセンドがめざす“手段”としての「プロダクトエンジニア組織のおもしろさ」|CTO丹羽×CPO森居×技術顧問 海老原
「物流の真価を開き、あらゆる産業を支える」ことをめざして、物流業界の課題解決に取り組む株式会社アセンドは、技術顧問として海老原智さん(ex;株式会社カケハシ取締役CTOなど)を迎え、エンジニアリング組織のさらなる強化を行うことを発表しました。
今回は、海老原さんをオフィスに迎え、CTO丹羽とCPO森居の3名で、アセンドがめざす「社会課題解決の手段としてのエンジニアリング組織のおもしろさ」について議論した様子をお届けします。
物流業界が抱える構造的問題を踏まえ、エンジニアリング組織がより顧客の課題に向き合うためにはどうすればよいか。解決手法とそのための思考を突き詰める、3人の鼎談をお楽しみください。
物流は”表面化しにくい”社会課題
── まずは、アセンドが向き合う「物流業界」が抱えている課題について、教えてください。
丹羽(CTO):物流は日本における、重要な社会課題の一つだと捉えていますが、医療や介護、行政などと比べると注目されにくい分野だと感じています。言うなれば「当たり前」の機能として存在しすぎていることが課題だと考えています。たとえば、コンビニエンスストアに行けば必ず商品が並んでいる。オンラインで注文すれば翌日には商品が届く。そんな便利さの裏側には、ドライバーの人手不足や長時間労働、環境負荷の問題など、物流業界は多くの課題を抱えています。
社会課題としての「物流」にもっと着目してほしいと思いますし、その中で私たちアセンドがどう向き合っているかということも、もっと伝えたいと考えています。
医療領域のCTO経験者を、物流領域の技術顧問として迎えた理由
── 丹羽さんが海老原さんを技術顧問として迎えたかった理由は、ずばりなんでしょうか
丹羽(CTO):物流という社会課題に挑む人がまだまだ多いとは言えない状況のなかで、スタートアップならではの仮説や検証をスピード感をもって行うためには、先行している別の業界や課題からもヒントを得る必要がありました。特に医療領域は、社会課題としての認知もされており、課題の連続性という意味においては、物流と相似する部分を感じていました。
海老原さんとはじめてお会いしたときに、医療領域に挑むスタートアップのCTOとして、エンジニアリング組織を立ち上げ、課題に対して真摯に向き合ってきたご経験を伺うなかで、これからのアセンドが物流という大きな課題を解くためのヒントを得たり、ともに考えてくださるイメージがあったんです。ぜひ、技術顧問をお願いしたいと、海老原さんに相談しました。
医療領域を経験したCTOからみた「物流」の課題
── 海老原さんは物流という分野にどのような印象を持たれましたか?
海老原(技術顧問):実は、以前にも別の物流系のスタートアップから声をかけていただいたことがあって、その時はタイミングもありお話をうかがうに留まったんですが、それが物流という分野に対する興味のきっかけでした。その際に聞いて最も印象に残ったのは、「今、日本を走っているトラックは、みんな積荷の半分ぐらいは空気を運んでいる」というコメント。これを聞いたとき、本当に大きな課題だなと強く感じました。
また、物流業界には下請け構造が複雑に絡み合っています。これからの日本は人手不足が深刻化していく中で、これらの課題をどう解決していくのか……という点で、物流業界のDXに興味がありました。
── 海老原さんが前職まで関わっていた医療領域と物流の関連性はどういった点にありますか?
海老原(技術顧問):直接的な関連でいうと、薬局が扱う「薬」というもの自体物流によって運ばれることによる課題が切っても切れないものですよね。実際、わたしがCTOだった期間にも何度か「薬不足」というキーワードが新聞の見出しを飾ったこともありましたし、コロナ禍のひとつの総括として、「安定した薬の供給」という課題は現在も業界に残っていると感じています。
社会のインフラとしての医療があり、さらにそれを支える物流の世界があり、基盤として深ければ深いほど実際に存在するものを運ぶ、みたいなある種の物理性みたいなものから離れにくくなると思いますが、だからこそ電子化、情報化できる部分を進めることで生まれるインパクトも大きいのではないでしょうか。そういう意味での面白さは共通していると思います。
プロダクトエンジニアが担う「役割」
── プロダクトエンジニアとは、具体的にどのような役割を担う人材なのでしょうか?
丹羽(CTO):プロダクトエンジニアは、単に技術的なスキルを持っているだけでなく、顧客の課題を深く理解し、その解決に向けてプロダクトを設計・開発できる人材です。技術はもちろん重要ですが、それ以上に顧客視点や事業視点を持ち、プロダクト全体を俯瞰できる能力が求められます。
たとえば、ある機能を開発する際に、「この機能が技術的に実現可能かどうか」だけでなく、「この機能がお客様のどんな課題を解決するのか」「この機能によってお客様の業務がどう変わるのか」といったことまで考える。そういう視点を必要としています。
そうなったときに、フルスタックエンジニアとかフルサイクルエンジニアとか、そういう技術中心の考え方ではちょっと違和感がありました。エンジニアがなにを求めて事業に関わるのかと考えたとき、「プロダクトエンジニア」という形が適していると思ったんです。
プロダクトエンジニア組織は「越境的に働く」
── 海老原さんは、プロダクトエンジニア組織についてどのように考えていますか?
海老原(技術顧問):「プロダクトエンジニア」という概念を伺ったとき、前職でも自分の開発組織づくりの上で同じような意識を持っていたなと思い返しました。特に創業から数年のあいだは、組織としての前提だったと思います。フレーズこそ異なるものの、大切にしている価値観や意思自体は、すごく近いものなんじゃないかなと感じています。
私が以前使っていた言葉だと、「越境的に働く」という表現に近いかもしれません。自分の専門分野だけにとどまらず、顧客の課題や事業全体を見据えて仕事をするということです。
事業の成長につれて組織が大きくなると、ある程度分業して統制やガバナンスを効かせていく必要も出てくる。でも、越境的に仕事をすることの重要性は変わってはならない。そこのバランスをどう取るかがプロダクトエンジニア組織を実現していくうえでは難しいところだと思います。
── 組織の拡大に伴う課題について、もう少し具体的に教えてください。
海老原(技術顧問):スタートアップの初期段階では、少人数でなんでもかんでもやるという状況が多いです。それはそれで良いのですが、組織が大きくなるにつれて、必然的に役割分担や責任の所在を明確にする必要が出てきます。
例をあげると、プロダクトマネージャーの役割とプロダクトエンジニアの役割をどう区別するか、といった問題は成長する過程で生まれる課題感の一つです。アセンドの場合、現在はプロダクトエンジニアがかなりプロダクトマネージャーの役割も担っているようですが、これは組織の規模が大きくなるにつれて変化していく可能性があります。
重要なのは、組織が大きくなっても、「顧客の課題を解決する」という根本的な目的を見失わないこと。役割が細分化されても、必要なときには領域を越えて協力し合える柔軟性を持ち続けることが大切だと考えています。
ビジネス組織と同期する、アセンドの越境型開発
── CPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)である森居さんはプロダクトオーナーとして事業に携わっていらっしゃいますが、どういった役割を担っているのですか?
森居(CPO):CPOとしての今の私の役割は、お客様の課題を特定し、その解決に必要な機能のミッションと枠組み(フレーム)を定め、エンジニアリング組織とともに思考しながら、課題解決の確度と精度を高めることです。機能のミッションと大きな枠組みを定めることができれば、後はプロダクトエンジニアに任せるというフローを組むことができます。
── 具体的に、どのようにしてプロダクトエンジニアとコミュニケーションを取っていますか?
森居(CPO):基本的には、私やビジネスチームがお客様との対話を通じて把握した課題や要望を、プロダクトエンジニアに共有することから始まります。その際、単に「こういう機能が欲しい」というだけでなく、「なぜその機能が必要なのか」「それによってお客様のどんな問題が解決されるのか」といった背景情報も含めて共有するよう心がけています。
また、定期的にプロダクトエンジニアと一緒にお客様を訪問し、実際の現場を見学する機会も設けています。これにより、プロダクトエンジニアが直接お客様の声を聞き、課題を肌で感じることができます。
── CPOの森居さんから同期された情報を、プロダクトエンジニアはどう反映しているのでしょうか?
丹羽(CTO):アセンドのプロダクトエンジニアは、技術的な課題だけでなく、お客さまの課題を直接解決することに取り組んでいます。たとえば、技術的負債の問題ひとつとっても、単に「良くないアーキテクチャだから直しましょう」というだけでなく、それがお客様にとってどういう具体的な問題につながっているのかまで考え、開発に落とし込んでいます。
海老原(技術顧問):プログラムを書くこと自体が目的ではなく、顧客にとってのソリューションになっているかどうかが常にトッププライオリティにあるのは、プロダクトエンジニアとして重要な視点ですよね。DXはあくまで手段であって、目的ではありませんから。
技術的に優れたソリューションを作ったとしても、それが実際の現場で使われなければ意味がありません。プロダクトエンジニアには、技術力だけでなく、顧客の業務フローを深く理解し、その中でテクノロジーがどのように役立つかを考える能力が求められるなと。
社会課題にともに挑むエンジニアを増やしたい
── プロダクトエンジニア組織を通じて、どのような人材と働きたいと考えていますか?
丹羽(CTO):世のため人のため、社会課題を解決するために、エンジニアリングに関わる人を増やしたいという思いがあります。そして、そういう人たちが活躍できる組織を作っていきたい。
具体的には、物流という社会インフラの重要性に共感し、その課題解決に情熱を注げる人材を求めています。技術的なスキルはもちろん重要ですが、それ以上に、社会課題に対する強い問題意識と、それを解決したいという強い意志。その両方を持った人材が必要だと考えています。
意志があれば、技術自体は後からついてくるという気持ちがあるので、まずは思いのある人が開発に携われるような状態を作っていきたいですね。
また、プロダクトエンジニアのように、技術と事業の両方を深く理解することができるスキルは、キャリアの観点からも非常に価値のある経験だと思います。将来的にプロダクトマネジャーを考えている人や、CTOを目指す人にとっても、プロダクトエンジニアとしての経験は大きな財産になるでしょう。
プロダクトエンジニアとして、アセンドで働くおもしろさ
── アセンドのプロダクトエンジニア組織は、今後どのように発展していくと考えていますか?
丹羽(CTO):現在、私たちの組織はまだ小規模で、各エンジニアが広範囲の責任を持っています。しかし、今後は組織が大きくなるにつれて、より専門化された役割が生まれてくると思います。その過程で「プロダクトエンジニア」としての本質、つまり顧客の課題解決への強い意識は失わないようにしたいですね。
また、今後はより多様な背景を持つエンジニアを迎え入れたいと思っています。物流の経験がある方だけでなく、他の業界でプロダクト開発の経験がある方など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まることで、より価値あるプロダクトを生み出せるのではないかなと。
森居(CPO):プロダクトマネジメントとエンジニアリングの連携をさらに強化していきたいと考えています。現在でも密接に連携していますが、今後はより戦略的な協働を目指したいです。たとえば、プロダクトロードマップの策定段階から、エンジニアリングチームが積極的に関与するなど、より抽象度が高く早い段階からの協働を進めていきたいですね。
プロダクトエンジニアを目指す仲間たちへ
── 最後に、アセンドで働くことや、社会課題に挑みたいエンジニアの方々にメッセージをお願いします。
海老原(技術顧問):これは広義ではすべてのエンジニアリングに言えることかもしれませんが、特にBtoBと呼ばれる業態のソフトウェア開発においては、自分たちの手がけたプログラムやパッケージが、顧客に届ける影響を実感しやすい環境であると感じています。これは顧客との距離感の近さや、関わり方、深さによるものだと捉えています。
それを実現するためにも、ソフトウェアエンジニアは「越境的」に開発に関わることが求められますが、アセンドではプロダクトエンジニアの概念のもと、常に顧客の課題とその解決を中心にして開発をしていることを強く感じます。そういうチームに入り込んで開発に寄与できたときの喜びや成長は大きいはずですし、アセンドが向き合う「物流」という領域は、自分たちの生活と地続きでその変化に対する実感は深いものだと思います。
私自身医療の世界で体験したことですが、自分たちが提供したサービスが提供した顧客価値を通じて起きた社会の変化を直に感じることの感動は何者にも代えがたいものだと考えています。
森居(CPO):アセンドのプロダクトエンジニアとして働くことは、技術と事業の両方を深く理解する稀有な機会だと考えています。物流は、社会にとって非常に重要でありながら、まだまだ改善の余地がある分野です。社会課題を解くことに魅力を感じる方は、ぜひ物流の未来を一緒に創りましょう。
丹羽(CTO):「物流業界を変革する」という目的に対して、熱量を持って、全社一丸となって取り組める環境がアセンドにはあります。ぜひそこに飛び込んで、みなさんの力を発揮してほしいです。
また、プロダクトエンジニアとしての経験は、将来どのようなキャリアを選択するにしても、必ず生きてくると思います。技術力だけでなく、ビジネスの視点も身につけられる貴重な機会ですので、少しでも興味がある方はぜひチャレンジしていただけたら嬉しいです。
執筆・写真:詩乃 / shino
編集:ツジイコウタ(シカクキカク)