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配車現場から白板が消えた、運送会社のDX取材録

こちらの事例は、国内最大級の物流ニュースサイトLOGISTICS TODAYの物流業界の変革特集にて、弊社製品の導入企業様をご取材いただいたものを、編集部の許可を得て転載しております

取材・制作 / LOGISTICS TODAY

配車現場からホワイトボードが消えた──。
白板に書かれた雑把な配車表を手打ちでエクセルに落とし込み、それを確認した総務担当者が請求書を作成、取引先に送付する。無駄の多い業務フローだとわかっていながら、経営者、配車担当ともデジタルには疎遠で、アナログな作業が染み付いていた。それでもデジタル移行に踏み切り、その取り組
みを加速させるに至った運送会社を取材した。

▲柳川合同本社

1954年の創業以来、トラック運送業を中心に事業展開する柳川合同(福岡県柳川市)は、1年前に配車業務のデジタル化を決意。採用したツールは、アセンド(東京都新宿区)が運営する運送管理システム「LogiX」(ロジックス)だ。配車効率を高めただけでなく、データに基づく改善点の抽出、投資判断の手法としても活用しているという。

運送DXを支援する目的で開発されたロジックスは、受注から配車、帳票作成、請求書送付など一連の業務をデジタル化するだけでなく、車両管理、労務管理データを蓄積、可視化するなど、トラック運送業務を一気通貫で支援する。

システム導入段階のサポートの手厚さだけでなく、抽出したデータを運賃交渉などに活用するための支援までも事業者と並走して取り組むアセンドの「支援体制」そのものが、デジタルツールに不慣れな運送事業者のDXを導いてきたといえる。

間接業務をデジタル化、配車機能の強み際立たせる

柳川合同は福岡県を中心に九州、関東、関西の10拠点に240台の営業車両を有し、従業員400人を抱える中堅物流企業として、福岡では名の通った存在である。主力のトラック運送事業をはじめ、2009年には同社で初めてとなる営業倉庫を建設し、3PL事業を展開するなどして業容を拡大してきた。

▲柳川合同の荒巻哲也社長

「われわれ中小の事業者はドライバーを動かす、配車の技術では大手に負けないません。ここで勝負しなければいと中小はやっていけない」(柳川合同の荒巻哲也社長)

3PL大手などが労務管理の煩わしさから配車を外注に移行する流れに抗い、配車業務の自社運用に強くこだわってきた。これが傭車利用分を除く自社トラックによる売上高が全体の6割を占めるに至り、「柳川合同といえば優れた配車力を兼ね備えた3PL」を強みとして打ち出す“差別化戦略”につなげている。

トラックドライバーの年間所定外労働時間の上限を960時間に制限する2024年問題に対して「しっかりとしたドライバーがそろっている運送事業者にはチャンスになるはずだ」と前向きに捉えることができているのも、こうした取り組みが背景となっているからに他ならない。

全国6万以上の運送会社から見ればうらやましい限りの柳川合同だが、経営者の考えだけでその境地に至ったわけではない。コスト削減の必要性は認識していたが「削減できるのは本社経費などの間接費のみ」と考えた荒巻氏は間接費を削減する手段として、漠然と社内業務のデジタル移行が頭にあったというが、当初は「ワンクリックで請求書の送付までできるシステムとか、夢みたいなことを考えていた」と笑う。

「デジタル移行による作業効率化への想いはあるものの、どう実現への道筋を描けばいいかわからない」という、運送会社に勤めたものならば一度は経験したことのあるあの感覚だ。

同社にも基幹システムはあった。それまでIT企業との付き合いといえば、その基幹システムの開発協力会社くらいだったが「自社でシステムを開発し、資産として持つ形では、業務スピードの変化についていけない」と限界を感じていたのも事実だ。そんな時に出会ったのがアセンドだった。

「アセンドの日下(瑞貴)社長が来社しくれて話した際、『この人どこかで見たことあるな』と思っていた。よく考えたら、ある物流業界紙で物流DXの連載コーナーをお持ちだったことに途中で気付いた。話してみたら物流のことをよく知ってるし、柔軟に対応してくれそうな話しぶりに、信頼できるという印象を抱いた」(荒巻社長)

ここから「柳川合同の物流DX」がはじまる。

まずは一部の配車業務から試験導入を開始する。現場で最初にシステムを使用することになったのがドライバー出身で配車担当の椛島智宏(かばしまともひろ)氏だった。「デジタルとはまったくの無縁」(本人談)で、荒巻社長も椛島氏を横目に「超アナログだった」と笑う。

▲柳川合同の配車を務める椛島智宏氏

椛島氏が抱えていた課題は「配車漏れや顧客漏れなどが従来の紙ベースだと避けられず、いずれはデジタルに移行する必要性を感じていた」(椛島さん)というもので、従来のアナログな手法で煩雑になった業務体制の先行きに不安も感じていた。

超アナログな元ドライバーによる物流DXへの“挑戦”を危惧していたのは何よりも椛島氏本人だったが、「意外なほどにすんなりと取り組めた」という。アセンドのサポートも大きかった。結論からいえば、現場からの好意的な意見が導入拠点の拡大を後押しし、2023年中には同社の全事業所とすべての車両に導入することを決めた。ここまでわずか1年、来春に迫るドライバーの所定外労働時間に上限が設けられる2024年問題への視界が急速に開けてきた。

荒巻氏の「24年問題はチャンス」という発言は、自社の配車体制がアセンドのデジタルツール(ロジックス)によって可視化され、現場担当者が納得する様子を見て、自信を深めた経験がもたらしたものだろう。

並走して作り上げた柳川合同仕様のシステム

いかにして物流DXに円滑に着手するか、同社の取り組みとその経緯は、全国の中小運送事業者が悩むこの課題を克服する好事例ともいえるが、話を聞きながら「なぜロジックスだったのか」「ほかの選択肢は検討したのだろうか」という疑問も湧いた。

このツールを導入したきっかけを同氏に尋ねると「タイミングが良かったとしかいえない。先ほども話した通り、真剣になんとかしなければと物流DXを考えていたときに、『一緒に業務改善に取り組んでいきましょう』といってくれたアセンドとの縁がきっかけだ」と振り返る。DXの道筋を頭の中で描きながらも、具体的な取っ掛かりをつかめなかった荒巻氏にとって、このひとことが決め手となった。「DXといってもどう変えていけばいいのかわからない」(荒巻氏)というのは、数多の中小運送会社の経営者に共通する率直な意見だろう。

配車関連のシステム面は、実際に配車を担当する椛島氏がアセンドに現場からの改善点を提示し、アセンド側がその「要望」に応える形で改善を進めた。同氏は「システム改善を相談したらその都度対応してもらえる反応の良さ」を高く評価しつつ「配車業務は従来のアナログなものからだいぶ変わった」とわずか1年で自社の配車業務に起きた変化を感慨深げに振り返った。

荒巻社長は「アセンドのこの事業者に寄り添う姿勢こそが、今日までの関係性につながっている要因」と指摘するとともに、全事業所への展開により「さらにロジックスの本領が発揮されるのでは」と期待を寄せている。

DXが新たなDXを呼ぶ好循環へ

デジタルツールの活用における次なるステップは、システムに蓄積されたデータをどう活用するかだ。可視化されたデータを上手に活用し、経営の改善に生かして初めてDXは達成されるわけだが、これまでデジタルとは無縁だった事業者が、即座には実行できるとは思えない。「データを活用すべき」と考える事業者のなかでも、「どのデータを活用すればいいか」が理解できる者は限られ、データ活用の前段階で躓く事業者は多いはずだ。

荒巻社長もDXのイメージは当初からあったものの、ロジックスを導入するまで、それを経営とどう連動させられるかの発想には及ばなかった。しかし、複数のエクセルにデータが分散することがなくなった今、自社の事業の強みや売上構成の把握まで、ロジックスのダッシュボード上で簡単に見ることができるようになったと話す。

「ただ、最後は紙に手で書きながら考えてしまう。自分のノートがあって、長年の癖で(笑)。ここが上手くいっている、だから次はこういった車種を買うぞとか、考えながらね。私の世代は、そこだけ最後はという気持ちを持ってしまうが、見る分には100%デジタルで見れるよ」

▲無事故ドライバーを表彰する荒巻社長

取材が終盤に差し掛かった頃、荒巻氏はさらに、アセンドに対してこういった要望も付け加えた。「デジタコの車両管理データと労務管理のデータを結び付けられたら、もうほかのシステムが何も要らなくなる。それができたらこれぞDXというイメージ。そこまでやってくれるということで、いまかいまかと待っている」。さすが柳川合同の社長だなと思いつつ同氏の顔に目を遣ると、その目は笑っていなかった。

少し前までDXの入り口を模索していた経営者や、超アナログだった配車担当者が、デジタルツールの導入により、先のDXを見据えた領域までイメージできている。このように、デジタルツールは使ってみるまでわからないことは多い。

柳川合同のように、デジタルに触れることでいっそうDXの問題意識が醸成され、新たなDXへの道が開けていく可能性もある。DXはシステムベンダーだけによって叶えられるものではなく、ITベンダーと物流事業者が共同作業をする過程で成し遂げられるものなのかもしれない。

(取材・制作 / LOGISTICS TODAY)